このたび、第38回の九州肝臓外科研究会を担当させていただくこととなり、関係各位に感謝申し上げます。
九州肝臓外科は伝統ある研究会であるとともに、未来につながる革新的な研究課題に次々に取り組み、現実に結果を出してきています。その流れを絶やさないように、今回の学術集会においても、あらたな課題を提案し、議論し、結果を生むように取り組みたいと考えます。
わたしは侵襲の大きい肝臓外科・膵臓外科手術において、低侵襲で緻密な手術手技を可能とする腹腔鏡下手術の存在意義が大きいものと考え、10年以上前からこれに取り組んできました。しかし近年の一部の施設の不祥事により全国的に腹腔鏡下肝・膵手術の一部が数年にわたりできなくなっていたことは皆さんご承知のごとくであります。本年になって(おそらく)肝臓内視鏡外科学会や日本肝胆膵外科のトップと国との間で、非公開の話し合いの結果、施設を限定して保険適応とする形で再開されました。我々の施設でも肝臓に関しては再開できましたが、膵臓に関してはいまだできておりません。しかし、保険収載される手術手技に対し特定の施設のみで行えるような規制をかけることは異例であり、腹腔鏡下の手術において肝臓・膵臓手術のみがこのような形で規制をかけることも日本だけではないでしょうか。腹腔鏡下肝・膵手術がより多くの患者様に受けていただく様な一般的で安全な医療とするためには、現行手術手技に関する徹底的な検証と改善こそが必要であると考えます。現在の本邦の学会においては、一部の施設もしくは外科医にしかできない、もしかしたら日常的にはできないような高度?な手術手技を自慢しあう内容になっていて、一般的・普遍的な技術を確立しようとする姿勢に欠けていると思います。
我々が通常行っている手術には、学会のビデオセッションに提出しうるような「うまくいった」症例ばかりでなく、時間がかかったり、出血したり、失敗ではないもの大変に苦労した「うまくいかなかった」症例もあるはずです。うまくいくのも、いかないのも、必ずそこに手術結果を左右する要因があるはずであり、これを抽出・解析することが手術手技の普遍化・一般化に通じるのではないでしょうか。しかし、術者自身が手術ビデオを見返したとしても要因解析を客観的に行うことは難しいのかもしれません。幸い、九州肝臓外科の参加施設は腹腔鏡下肝切除の領域でも積極的に取り組まれている質の高い施設ばかりであり、我々が互いの手術の内容を客観的に評価するような「Study」を組めば、安全で普遍的な腹腔鏡下手術手技の確立に寄与しうるのではないでしょうか。私は、今回の第38回九州肝臓外科において、これから一定期間内(半年程度)に行う腹腔鏡下(系統的)肝切除症例のビデオを、施設間相互で、すなわち第三者により互いに評価検討するシステムを構築、前向き研究として統計解析・論文化することを提案したく考えております。このためには、手術結果を左右しうる因子をあらかじめ決定しておき、各因子に2-4個程度の変数をわりあてた評価シートを作成、匿名施設肝臓外科医が匿名施設手術ビデオを観てシートに記入、これを統計解析して手技の普遍化・安全化に寄与する因子を抽出、九州肝臓外科としての提案として論文化することを考えております。今回の学会においてはこの評価因子を決定するために、これまで各施設で経験された腹腔鏡下(系統的)肝切除において、「この点がまずかった(この点がよかった)」とか「こうすればよかった(こうしたからよかった)」などの示唆に富む具体的な映像を供覧していただけませんでしょうか。各施設のご発表を集めて、統計解析のための評価因子策定を行いたく考えます。